K4-GP 2017 in FSW

 Seven160世界初の本格モータースポーツ参戦となった2016年。このレースは 毎年2月と8月に富士スピードウェイを舞台に開催され、マレーシアで24時間耐久も行われた軽自動車を中心としたレースだ。K4GPはレース中使用できるガソリンの量が決められているため、速さもさる事ながら、いかに効率よく走ることが出来るかが勝利への鍵となるというのが、通常の耐久レースと大きく異なる点だ。

 昨年は初参戦にしてクラス3位を獲得し、「ノーマルのCATERHAM SEVEN 160がどれほどの性能を持っているのか実証してみせよう」という目標を達成し、大きな手応えを得ることが出来た。「ならば優勝を狙おうではないか!」、と言うのが今年の目標である。

 今年もマシンは本国の第1号車・開発車両としても使用されていたSEVEN 160。ポテンシャルと信頼性の高さは十二分に証明されており、各部のメンテナンスとセッティング、細かな改良を主軸にマシン作りを行ってきた。ファイナルがショート故にストレートでのスピードが伸びないという160の弱点は、タイヤを大径化することで補う作戦だ。それによりハイグリップタイヤの選択肢はなくなり、エコタイヤでレースに臨むこととなった。それ以外は相変わらずサスペンションもホイールもブレーキもノーマルのまま。レーシングマシンと言えば、豪快なエキゾーストノートを想像するが、我らがSeven 160はエンジンもマフラーもノーマルのままである。ロールケージやバケットシートで武装した勇ましい出で立ちから連想すると少し拍子抜けしてしまうほどにジェントルなサウンドだ。

 レース1週間前に行われたフリープラクティスでのセッティング・データ取りも万全だ。2度めのチャレンジということもあり、チーフメカニックを務める内藤の顔にもどことなく余裕が感じられる。 富士スピードウェイのゲートオープンが5:30ということを考慮し、スタッフは前日に現地入りだ。 営業終了後にSeven 160をローダーに積み込み、夜の東名高速を御殿場を目指してひた走った。

 レーススタートの4時間前、ホテルのロビーに集合し、富士スピードウェイへと向かう。周りは真っ暗だったが、すでにゲート前には参加者の車のテールランプが長蛇の列をなしていた。車列に並び、ゆっくりゆっくりゲートへと近づくにつれて我々の気分も高揚し始めていた。

 我々のチームはドライバー・メカニックだけでなく、毎回有志で集まってくれるClub Witham Racingのチームクルーもベテラン揃いだ。メカニックとドライバーが車両を積載車から下ろし、工具などをセッティングしている間、ピット前ではチームクルーがホスピタリティテントを設置し、食事やドリンクの準備。極寒の富士スピードウェイを走るチームのサポートの準備をテキパキと進めていた。テント内はストーブが焚かれ、いつでも暖かい食事をとりながら身体を休ませることが出来るため、ドライバーは心身ともに万全の状態でレースに望むことが出来るのだ。7時間という長丁場、しかも真冬のレースでは非常に重要なポイントである。

 

 我々のピットは11番。K4-GPでは 1つのピットを4チームが共用する。我々の隣には、由良拓也氏率いるチームのマシンが出番を待っていた。手強い相手となるであろう、ライバル達のマシンを前にするとますます闘志が湧いてくる。

 当日の天気予報は90%という数字と傘のマークが表示されており、前日から天候に不安があった。しかし日が昇り始めると、青空がひろがり朝日に照らされた美しい富士山が顔を見せていた。「せめてゴールまで雨だけは降ってくれるなよ」、と祈りながら車検場へと向かう。
 
 車検場のスタッフとドライバーでもケータハムジャパンのジャスティンは顔馴染みで、終始和やかな雰囲気で車検が行われたが、車両をチェックするスタッフの目は真剣そのもの。マシンに問題はないとはいえ、少しだけ緊張しながら車検完了を待った。

 無事に車検を通過したあとは、最初の給油となる。レギュレーションでは使用燃料80L、給油回数は4回以上と定められており、給油所は競技終了の1時間前に閉鎖される。さらに同時に2台までしか給油が出来ないため、給油所が混雑しないタイミングをも予測して、燃料補給を行う必要があるわけだ。どのタイミングで何リッター給油するか、何回給油するかなど、入念なシミュレーションのもとに決定された。


 定められた給油ポイントはホームストレートが始まる辺りにあるENEOSだ。最初の給油も、レースの間も全ての車がここでの給油が義務付けられており、給油ポイント-ピット間は30km/h、ピットロードは60km/hの速度制限が設定されている。焦って速度をオーバーすれば、5,000円の罰金が待っている。

 最初の給油は28L。タンクいっぱいまでガソリンを満たしたあとは、ドライバーとクルーの手で160を押してピットへと戻った。

 ピットに戻ったマシンはレースに向けてのメカニックによる最終チェックが行なわれると同時に、ドライバーとチームクルーでドライバーチェンジのリハーサルが行なわれていた。

 本番ではピットインした車にかけより、チームクルーがターンバックルを回してハーネスを開放すると同時にドライバーが車を降りる。スタンバイしていた次のドライバーが乗り込み、チームクルーがハーネスを装着させる。ドライバーチェンジは合計3回。1連の動作をいかにスムーズに時間のロス無くこなせるかが、レース後半に響いてくるのだ。

  ノーマルでも乗り降りにはちょっとしたコツがいる車だが、ロールケージを装着した160に人間が乗り込めるのは上部の三角形の隙間しか無い。レーシングギアを装着した状態でスムーズなドライバーチェンジを行うため、何度も乗り降りを繰り返す。
 ハーネスをバックルに装着するのも単純な動作ではあるが、ピットイン中の極限られた時間の中で確実に行うにはとにかく慣れるしかない。ハーネスを担当するクルーは、何度もバックルの着脱を繰り返し、手に一連の動作を覚え込ませていた。

そして今回から導入したヘッドセットのテスト。携帯電話を使ってピットからリアルタイムで指示を送ることが出来、万が一のトラブルにも迅速な対応が可能となることで、ロスタイムを削るために大いに役立つだろう。

 スタートが近づくにつれ、徐々に周りの空気も慌ただしくなりはじめた。Tipo佐藤編集長が160に乗り込み、コースイン。各マシンがグリッドへ整列すると、ブリーフィングが始まった。2016年のレースではスタートギリギリまで慌ただしく動いていた記憶があるが、今年はチーム全体に余裕のある空気が流れている。 そんなチームメイトを見ていると、「今年は優勝を狙える!」という気持ちがどんどん膨らんでいく。

 あちらこちらに凍結が見られた昨年に対して、路面のコンディションは非常に良好だ。ハッキリと影ができるくらいに太陽が出ていて日差しの暖かさが感じられる。風を遮るものがなく、気温の低さに体力を奪われやすいSeven160のドライバーにとってはありがたいコンディションだ。

  9:00オンタイムで、フォーメーションラップがスタート。参加車両は市販車をそのまま持ち込んだような車両から、フォーミュラカーのようなマシンまで、とにかく多彩だ。往年の名車のレプリカのようなデザインのマシンが多いのは「量産レースカーベースの車両は、必ず外観をレーシングカー形状レプリカ等の独自形状に変更すること」というレギュレーションによるものである。3周のフォーメーションラップのあと、セーフティカーがピットに入ったと当時に全車一斉に速度をあげ、7時間に及ぶ耐久レースが始まった。

 スタートドライバーはWitham Carsとの関わりも長くレース経験が豊富で、2013年のLOTUS CUP JAPANでは共に戦いシリーズチャンピオンを獲得したパートナーでもあるTipo佐藤編集長。
 
 佐藤編集長には28Lの燃料を使い切るまで、50周を走ってもらう作戦だ。燃費の関係からエンジンの回転数は5000rpmまでという制限を設けている。重要なのはどれだけ良いラップタイムを出すかではなく、5000rpm内でいかに早く走ることが出来るか。それには可能な限り安定した速度をキープする必要があるが、規模が大きな富士スピードウェイとはいえ、様々なレベルのドライバー・マシンが100台上がひしめき合う中を長時間同じペースを維持するのは容易いことではない。そんなシチュエーションであっても、佐藤編集長が刻むラップは抜群に安定しており、安心してレース運びを見守ることが出来る。

 タイヤを大径化したことによりわずかながらに最高速度は伸びただが、それでもメインストレートでは他車に抜かれてしまう。しかしコーナーリングではセブンの軽さを生かして巻き返す、といった様子だ。

 周回数17ラップ目、佐藤編集長からインカムを通じてチーフメカニック内藤に160の異常の報告が入る。電装系にトラブルが生じたらしく、160のメーターが全く動かなくなったというのだ。幸い走行には支障がなかったため、ピットインはせずにそのまま様子を見ながら走ってもらうことにした。タコ/スピードメーターが全く動かない状況であっても、佐藤編集長のラップタイムは大きくブレること無く安定していることには驚かされる。

 そこからはあと数周でピットインいう頃、再度佐藤編集長から160の不調の報告が入った。今度はエンジンの吹け上がりが悪いらしく、しかも症状が悪化しているようだ。だましだまし48ラップを走り切り、給油を終えてなんとかピットまでたどり着いた。

 ピットインと同時にまずはセカンドドライバーのケイバーと素早くドライバーチェンジを済ませる。

 160のエンジンフードを外し、バッテリーにテスターを当てるとわずか9.5Vしかない。チャージされておらず、バッテリーの電力だけで走っていたようだ。ピットまで戻って来られたのは本当に幸運である。スタッフ総出で原因の究明にあたり、ヒューズ切れによってオルタネーターからの電力がバッテリーまで届いていないことが判明した。手早くヒューズ交換を済ませたが、セルを回すだけの余力がバッテリーにはない。スタッフ総出で押しがけをするとすぐにエンジンは始動した。再度テスターをあてる。14.5V。正常な電圧だ。マシンが復活するまでの間、コックピットのケイバーは祈るように手を組んで作業を見つめていた。

 しばらくは無理をせずに様子を見ながら走るようケイバーに伝えてコースイン。トラブルシュートに手間取ってしまったため、給油からピットアウトまで17分を要してしまう。

  しかしコースインしてからわずか2周で、ケイバーがピットに戻ってきた。また電装系のトラブルの再発か!?とチーム内に緊張が走るが、幸い右リアをヒットしてだけで、軽傷であった。テープで応急処置を施して即コースに復帰する。

 この頃には雨が勢いを増し、サーキットはウェットコンディションになり始めていた。「西から少しずつ雨雲が近づいてきており、御殿場以外は土砂降りです」と場内にアナウンスが入り、大雨の中のレースとなることを覚悟した。
 周回数51ラップ目、1台のマシンがスピン。イエローフラッグが振られ、セーフティーカーが導入された。3周のセーフティーカーラン。全体の速度が落ちるセーフティカーの導入は、その後の作戦に響いてくるためチーフメカニック内藤は燃費と残燃料を計算して今後の作戦をリアルタイムで練り直していた。周回数67ラップで再度イエローフラッグが振られ、セーフティカー導入。同時に2度めのピットインを迎えた。

 サードドライバーはWitham Cars代表 篠原が務める。弱まる気配の無い雨を前に、篠原はレーシングスーツの上にレインウェアを着込んでスタンバイしていた。ドライバーとクルーの息の合ったコンビネーションで素早くドライバーチェンジが完了する。ドライバーチェンジは我々のチームが圧倒的に早い。

 篠原は3rd・4thのダブルスティントを担当する。富士スピードウェイの攻め方を知り尽くしているだけでなく、過去に様々なチームでK4GPに参戦し、総合優勝の経験もある。チームメイトの中でもK4-GPならではの走り方にももっとも習熟しているは大きな武器だ。


 レース開始から約4時間。この頃になると雨に不慣れな車のスピンやクラッシュが目立つようになってきた。全体のペースも目に見えて落ちており、特にコーナーでは多くの車が団子状態になっている。ウェットコンディションには決して強くないエコタイヤを履いているにも関わらず、雨の中もたつくライバル達を尻目にぐいぐいと順位を上げていく160の姿は見ていて痛快であった。

 87周目、1回目の給油。給油ポイントの混雑もなく、スムーズに8Lの燃料を補給し、タイムロスなしでコースへと復帰することが出来た。その後も順調なペースで周回を続け、順位を上げていく。

 

 給油所が閉鎖される15分前、最後の給油へと向かう160。この時間帯ならば給油所は空いているだろうという見込みであったが、それに反して10台以上の車が給油待ちの列を作っていた。給油を終え、コースへ戻っていくライバル達の姿に焦らされながらやっと給油を終え、ピットに戻ってきたのが14:54。給油だけで10分近く要してしまったのは手痛いタイムロスだ。

 

 始まる前はあれほど長く感じた7時間の耐久レースも、残りあと1時間となる。15:00ちょうどにバトンは篠原からジャスティンへと渡された。

 マシントラブルや最後の給油でのタイムロスにより、この時点での順位は思わしいものではなかったが、雨によってペースが落ちているため燃料には余裕がある。あと1時間あれば、結果はどのようになるかはまだわからない! 昨年のファイナルスティントでは、鳥肌の立つような走りで他のチームをゴボウ抜きしていったジャスティンの姿を思い出し、頼もしい思いでピットアウトする後ろ姿を見送った。
 サインガードへ張り付き、ジャスティンがホームストレートへ現れるのを、今か今かと待っていたが、一向に姿を見せない。流石に「これは何かあったな」と考え始めた頃、ジャスティンがピットへと戻ってきた。 なんと1コーナー目で止まりきれなかったマシンが、我々の160に突っ込んできたというのだ。ジャスティンに怪我がなかったのが不幸中の幸いか。ぐっしゃりとリアが潰れた160が痛々しい。この時点で残りは約40分。これ以上走り続けるのは不可能と判断し、リタイヤを決断したのであった。

 後日聞いた話によると、何事もなく走りきったマシン全体の3分の1だけだったというのだから、どれだけ荒れたレースであったかはご想像いただけるのではないだろうか。さらに公式リザルトには「160は追突行為により、6周減算のペナルティを科した」と誤った情報が掲載されるというオマケまでついてしまった。

  ジャスティンは早くも来年のK4GPへ向けて、マシンをどのように仕上げていくか、考えを巡らせているようだ。無念な結果に終わった2017年のK4GPではあったものの、雨の中エコタイヤで想像以上の走りが出来たことにより新たな手応えを得ることもできた。今回の経験により、「優勝」という目標へより近づくことが出来たのではないだろうか。「来年こそは…!」そう考えると今から来年のK4GPが待ち遠しくて仕方がないのだ。





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