K4-GP 2017 in FSW



3年目のチャレンジは新たなマシンとともに


 ファイナルスティントでリアに追突され、ゴール1時間前でリアイアという無念の結果に終わった2017年。3回目の挑戦となる2018年はClubWitham Racingとしてマシンを1から製作し、新たなマシンで挑戦することを決めた。ベースはもちろんCATERHAM SEVEN 160。ただし本国での開発車両でもあった昨年までのマシンと違い、市販車と完全に同一の車両をベースとした。 過去2回の参戦でポテンシャルは実証済みである。今年もロールケージ・バケットシート・4点ハーネス等、レースに必要な安全装備以外は最低限のモディファイで挑むこととなった。
  レース車両の製作と言うと、競技用のパーツを装着、軽量化、エンジンやECUのチューニング、といったイメージを抱くかもしれない。しかし実際はそれ以上に基礎的な作業が大半であり、重要である。
 7時間に及ぶ耐久レースであれば、何が起きるか予測は不可能。基本的なメンテナンスは当然として、緩み兼ねないボルトのワイヤリング、液漏れの対策など、様々な可能性を考慮しながらトラブルの種になりそうな箇所を徹底的に潰して行くのだ。そして万が一のトラブルの際に「いかに迅速に修理が出来るか」もタイムロスを削るためのカギとなる。例えばブレーキシューを迷うこと無く元通りに組み直せるようにマーキングを施す、純正の状態では多すぎるネジロック剤を一旦除去して組み直すなど、今までのレース参戦経験を元に地道な作業を積み重ねて行く。

 そういった作業と並行して、レースに必要な安全装備を取り付け、不要なパーツは取り外す。今回用意したパーツはロールケージ・サイドインパクトバー・バケットシート・4点ハーネス・消火器・LAPタイマーなどだ。
 用意したロールケージを仮組みしてみると、ひとつ問題があることが判明した。上部のパイプの位置が中央に寄っているせいで、ヘルメットをかぶった状態では頭が干渉してしまうのだ。ドライバーは上部の隙間から乗り降りするため、ドライバーチェンジの際のタイムロスにも繋がりかねない。
 そこで曲げ加工を施したパイプを新たに溶接し、頭上のクリアランスを確保することにした。すぐに必要な材料を手配する。素人目には時間がかかりそうな複雑な加工やパーツの製作も手際よく進んでいく。溶接や機械加工もお手の物だ。レースカー製作やヒストリックカーの整備に必須となる旋盤・フライス加工や溶接なども自社で完結することが出来るのも、Club Witham Racingの大きな強みである。

 そしてK4GPでカギとなる燃料管理と燃費。構造上タンクが完全に空になるまでガソリンを吸い上げることは出来ないため、ガソリンが出てこなくなった時点でどの位のガソリンがタンクに残っているか(=何Lの燃料が使用可能か)を正確に計測しておく必要がある。また、純正のフューエルゲージは正確さにかけるため、より精度の高いSTACK製フューエルゲージに交換し、レース中も見やすいように水温計と位置を入れ替えた。ガソリン残量の変化に敏感に反応して針が動くようになり、純正よりも高い精度で残量を把握することが可能となった。ファイナルがショート故にストレートでスピードが伸びない弱点については、装着可能なタイヤの中で外径が一番大きなタイヤを選択することで補う作戦だ。タイヤの選択肢が少なく、必然的にエコタイヤを装着することになる。エコタイヤで十分なグリップ力を得ることは出来ないが、それでも高い戦闘力を発揮するのはSEVEN 160の絶対的な軽さとシャシーのバランスの良さがあってこそだ。


  そして今年のマシンが昨年と大きく違うのが足回りである。2016・2017年はSEVEN 160純正のビルシュタインダンパーのままでレースに臨んでいた。もちろんスタンダードでも何一つ過不足のない素晴らしいサスペンションではあるのだが、さらなるコーナーリング性能の向上を狙い、今年のマシンにはアラゴスタ サスペンションをインストールしている。アラゴスタはWitham Carsで20年来、様々なカテゴリにおいて使用してきたサスペンションだ。CATERHAM・LOTUS・GINETTA等のレースで輝かしい結果を残しており、Witham Carsが最も信頼するサスペンションと言っても過言ではない。CATERHAMのラインナップ中最軽量のSEVEN160にあわせたセットアップを施し、K4GPというレースの特性に合わせて仕上げた。この足回りは大きな武器となるはずである。


シェイクダウン


 レースの2週間前に行われたフリープラクティス。この日がニューマシンのシェイクダウンとなった。今までのノウハウを盛り込んだマシンだ。本プロジェクトのチーフメカニック内藤の表情からも自信が伺えた。

 今回初参戦となるドライバー二人が、ライセンス取得のための講習会を受けている間、コースではClub Witham Racing代表 篠原と内藤メカニックにより、マシンのセットアップとテスト走行が繰り返される。
 イエローフラッグ、アタックなどの幾つかのシチュエーションを想定し、走行パターンを変えながら燃費データを取る。するとプロトタイプと市販車両の違いだろうか、昨年までのマシンよりも1割以上燃費が良いという嬉しい結果が出た!燃費が重要なK4GPでは大きなアドバンテージとなる。
 アラゴスタサスペンションの素晴らしさもテスト走行で改めて実感することが出来た。ラップタイムチャートにはほとんどブレのないラップタイムが記録されている。安定したラップが刻めるのは優れたサスペンションの証だという。これならば7時間をタイヤ無交換で、なおかつ燃費にも有利なドライビングが可能だろう。
 ニューマシンのパフォーマンスの高さを確認し、優勝へ近づくことが出来たことを確信できたフリープラクティスとなった。



当日朝:車検〜給油


  万全の準備で迎えた当日。雲が多い空模様だが、当日の天気予報は一日晴れとなっていた。雨に見舞われた昨年よりもずっと良いコンディションで戦うことが出来そうだ。
  ゲートオープンと同時に富士スピードウェイに入り、まだ暗いパドックでローダーからマシンを下ろす。ピットで準備を進めていると間もなく車検の時間だ。3年目だが、今年はニューマシン。何も問題はないはずとはいえ、少し緊張しながら無事に車検を通過するのを待った。
 車検の後は最初の給油だ。ホームストレートの端にある給油所に向かい、SEVEN 160のタンクを満たした。このレース「使用燃料80L・給油回数は4回以上」とレギュレーションでは定められている。80Lのガソリンでは、SEVEN 160のフューエルタンクを4回満タンにすることは出来ない。フリープラクティスで取得した燃費のデータ、過去の経験から入念なシミュレーションを行い、ベストであろう給油回数・タイミング・量を決定している。満タンにしたあとは、「今年こそは!」と高まる気持ちとともにマシンを押してピットへと戻った。


真っ白なピットロード


  ピットではスタートに向けてメカニックによる最終チェックやドライバーとの打ち合わせが行なわれるが、レース直前でありながらチーム内の空気に余裕が感じられるのは見ていて心強い。
  ピット裏ではクラブウィザムのチームクルーが、ホスピタリティテントを設置し、食事やドリンクの準備を慌ただしく整えていた。テント内は暖房が効き、温かい食事をいつでも取ることが出来る。サポート体制も万全だ。
 さてあとはスタートを待つばかりという頃、雪がちらつき始める。天気予報を見る限り、一時的なものだろう思っていたが一向に止む気配はない。ピットロードはみるみる白さを増していき、その上ホームストレートエンドが見えないほどに霧でかすみ始めた。 まさかこのままレース中止か。。。!?と思いつつ、ピットロードを眺めていると、なんと「予定通りにスタート」というアナウンスが入り、セーフティカーを皮切りに端のピットのマシンから順番にコースインしていくのが見えた。
 予定スタート時刻の15分前、佐藤編集長は雪化粧されたピットロードをSEVEN 160のテールを右に左に滑らせながらコースイン。全車グリッドに整列すると、ブリーフィングもそこそこにローリングラップが始まる。なんとも荒れたレースを予感させる始まりとなった。


1st Stint : 佐藤 Tipo編集長


 路面温度は5℃。ウェットコンディションであるものの、コース上に雪はない。3周のフォーメーションラップの後、セーフティカーがコース外に退避すると同時に、7時間に及ぶレースがスタート!
  今年もファーストドライバーを務めるのはTipo 佐藤編集長。 LOTUS CUPで共に戦い、Witham Carsとの関わりも深いドライバーだ。

 ライバル勢と異なり、我々のマシンはエコタイヤを履いているが、路面状況が荒れている状態ではタイヤの性能差が縮まる。そして第1ドライバーのTipo佐藤編集長のスキルもあり、快調なスタートを切る事が出来た。順調なレース運びを見守りながら、ふと昨年ファーストスティントで電装のトラブルが発生した時のことが頭をよぎったが、今年は順調そのものだ。
 レース経験豊富な佐藤編集長の走りは抜群に安定している。殆どブレのないタイムが並ぶラップタイムチャートをみると、篠原が絶対の信頼を置いている理由も理解できた。無駄のない走りゆえに燃料の消費も抑えられており、想定よりも良好な燃費を記録している。
 燃費とラップタイムのバランスを考えながら効率よく消化する為に、今回概ね4500rpm〜5000rpmにエンジン回転数を制限しての走行であるが、そんな中でも少しずつ追い上げていく佐藤編集長の総合順位はピットイン直前で総合2位! もちろん長い耐久レースで一時的に順位が上がったのは、他チームの給油やピットイン、様々な条件が重なったからとは皆わかっていても、チームメイトのの期待は膨らむばかりである。

 

2nd Stint : 近藤 崇史 - Club Witham Racing -


 スタートから約2時間半、48周を走り終えたところで給油&ピットイン。セカンドドライバーへとバトンが渡された。セカンドスティントを担当する近藤氏は、普段Team Club Witham Racingが様々なレースに出る際にサポートとして支えてくれているメンバーの1人だ。今回はドライバーとして参戦することになった。
 近藤氏は4輪でのレースはK4GPが初めての上に、SEVEN160での走行はフリープラクティスで数周走ったのみ。ぶっつけ本番に近いと言っていい。まだ路面が若干ウェットな状態でのドライバーチェンジはとてもプレッシャーになっていたのではないだろうか。
 しかしそこは元CATERHAM SEVENオーナーでもあり、2輪レースやカートの経験者だけあって初レースとは思えない走りを見せる。1周目から練習走行のときよりもずっといいラップタイムを記録していた。コンスタントに周回を重ねながら、SEVEN160の特性をつかみ、さらにタイムを伸ばしていくのは流石だ。後半はポジションをキープしながら、安定して周回を重ねていった。
  74周目を走りきったところで、ピットイン。タイミングよく滑り込んだ給油所でのタイムロスもなく、スムーズにチームの待つピットへと戻って来た。
  ヘルメットを脱いだ近藤氏は安堵の表情。「レース初参戦でもWitham Carsのサポートがあればレースに安心して参加する事が出来る!」と言う嬉しい言葉をいただいた。初参加ながらレースを楽しんでもらうことが出来たようだ。

 


3rd Stint : 原田 剛- Club Witham Racing -


 近藤氏と共に4輪レース初参戦であり、今回のレースのキーマンとなるのがサードドライバーの原田だ。走り終えた近藤氏からの「路面はオールドライです!」と言う一言に緊張の表情が少し緩むのが見えた。ベテランチームクルーのサポートもあり、初参戦の二人とは思えないほど、スムーズにドライバーチェンジが完了した。

 ドライバーチェンジ中にセーフティーカーが導入され、イエローフラッグが振られる中のコースイン。3周続いたセーフティーカーランにより燃料の余裕が出来たため、サインボードでペースアップの指示が出された。原田も最初の1-2周目こそ緊張から身体が少し硬くなってようだが、その後はレースの雰囲気が分かりSEVEN160の癖も思い出したことで、走る事を楽しむ余裕が出て来たようだ。
 ホームストレートでは抜かれる場面も多いが、超軽量な車体ゆえのブレーキングのタイミングやコーナーリングスピードを生かし、コーナーリングではハイグリップタイヤを履いたライバルたちを身軽にかわしていく。ベース車両のポテンシャルの高さと軽さと言う武器により、レース初参戦の原田も安心して走りに集中出来たという。

 ドライバーチェンジから約20周を走り終えてピットイン。初めてのレースに心身ともにクタクタの原田。ホッとした反面、「ドライビングが楽しくなっていたのでもう少し走りたい!」と言う気持ちもあったようだ。


4th/Final Stint : 篠原祐二 - Club Witham Racing -


 

 ゴールまでちょうど残り2時間、4th/Finalのダブルスティントを務める篠原にドライバーチェンジ。この時点で表彰台を狙えるポジションである!内藤メカによるとこれまでに何度かのセーフティカーの導入によって温存出来たガソリンにより、ゴールまでペースアップして追い上げることが可能だという。さらに篠原は富士スピードウェイを熟知し、過去のK4GPでは総合優勝も経験しているのだからチーム内の期待は膨らむばかりだ。
 弾き出されるようにピットアウトした篠原を見送り、コースを見渡たせる場所で待っていたが、一向にマシンが現れない。隣にいた近藤氏の「あれがSEVENじゃないか?」という声に目を凝らしてみると、Wako'sコーナーの向こうで止まっているマシンが見えた。接触などによる事故ではなく、マシントラブルのようだ。 その場ではどうにもならず、オフィシャル車に牽引されながらピットまで戻る篠原。止まった状況からトラブルの原因の目処はたっていたため、メカニック二人が即復旧させ再スタートを切る事が出来たものの、約10分のタイムロスとなってしまったのは手痛い。トラブルの原因は他車を避けた際に縁石に勢い良く乗り上げ、イナーシャスイッチが作動してしまったということだ。
 フィニッシュの1時間20分前、給油のためにピットイン。1度に給油できるのは2台のみ。給油所の前で並んで待たねばならない。それほど混雑していないとはいえ、もどかしい思いで順番を待つSEVEN 160を見守った。

Finish!


 

 最後の給油を終えてからはトラブルもなく、篠原の猛プッシュが続く。一時では総合39位まで落としていた順位も、26位まで巻き返していた。
 フィニッシュまであと20分というタイミングでセーフティカーが導入された。レース序盤であればともかく、燃料も残ったフィニッシュ間際のイエローフラッグは歯がゆいばかりである。気持ちばかりが焦るが、ただ見守るしかない。4周目でセーフティーカーランが解除。再度猛スパートをかけるも、まもなくチェッカーが振られ、総合25位・クラス15位でのフィニッシュとなった。
 ゴール後は無事7時間を走り切ったことを称えあう。結果を抜きにしても、レース終了後に味わう達成感と充実感をチームメイトで共有するこの瞬間は代えがたいものがある。マシンの製作からスタートした今年のK4GPは、改めてレースの奥深さと楽しさを実感することが出来た。

 振り返ってみるとやはり悔しさが残る結果となったものの、来年はトラブルの原因さえ潰せばこのマシンで十分に表彰台が狙える!という確信を得られたのは大きな成果だろう。2019年こそは・・・!!一歩ずつではあるが、我々は優勝へと確実に近づいている。





こちらに掲載しきれなかった写真はフォトギャラリーで公開しております。

是非下記のリンクをクリックしてご覧下さい。