Feature
EUROPAの歴史:量産ミッドシップの概念を変えた革新のパイオニア
開発の経緯:フォーミュラカーの技術を市販車へ移植する、チャップマンの新たな挑戦
ヨーロッパ誕生の原点は、1960年代半ば、ロータスがフォーミュラ1(F1)をはじめとするモータースポーツ界でミッドシップ革命を牽引していた時代にあります。
当時、エンジンをドライバーの後方に配置するミッドシップレイアウトはレーシングカーだけの特権であり、市販車への応用はコストやパッケージングの面から極めて困難とされていました。しかし、創始者コーリン・チャップマンは、エランで成功を収めた「鋼鉄製バックボーンフレーム」の思想を応用。フロントにエンジンを積んでいたエランとは逆に、フレームのリア側を二股(Y字型)に広げ、そこにパワートレインをそっくり収めるという画期的な手法を考案します。
こうして1966年、レーシングカー直系のメカニズムを本格的な量産スポーツカーとして驚異的なプライスで実現し、ミッドシップを世界に普及させる大いなるターニングポイントとなった「ヨーロッパ」が誕生しました。
開発のコンセプト:驚異的な低重心と空力を追求した軽量ミッドシップ
ヨーロッパに与えられたコンセプトは、エランのライトウェイト思想をさらに推し進め、ミッドシップならではの「究極のコーナリングパフォーマンスと卓越した空力性能を具現化すること」でした。
市販車でありながら全高はわずか1,000mm強(約42インチ)に抑えられ、地を這うような驚異的な低重心スタイリングを獲得。初期型(Sr.1)では軽量化とボディ剛性を極限まで高めるため、FRP製ボディとシャシーを完全に一体接着するという、まさにレーシングカーそのものの割り切った設計がなされました。心臓部には軽量・コンパクトなルノー製ユニット(のちに自社製ツインカムへ発展)を組み合わせ、車重はわずか600kg台を達成。
「地を這うゴーカート」と称されたその圧倒的な回頭性と路面追従性は、従来のフロントエンジン車では到底到達し得ない、新しい次元のハンドリングをもたらしたのです。
市場での評価とモータースポーツでの足跡
ヨーロッパは特に欧州大陸や北米市場で高い評価を受け、エランと並びロータスの財政を支える大ヒット作となりました。
モータースポーツにおいては、その基本骨格をベースに開発された純レーシングバージョン「Type 47」がサーキットへ投入され、国際的なGTレースで格上の大排気量スポーツカーを圧倒。ミッドシップ・ロータスのポテンシャルの高さを世界に知らしめました。また、日本では1970年代の漫画『サーキットの狼』の主人公の愛車として描かれたことから、スーパーカーブームの主役の1台として社会現象を巻き起こし、今なお日本のクラシックカー市場において神格化された人気を誇っています。
単なるノスタルジーに留まらず、ミッドシップ・ライトウェイトの原点にして完成形として、誕生から半世紀以上が経過した今も自動車史に燦然と輝く偉大な足跡を残しています。
Model Variations
EUROPA モデル展開と特徴
シリーズ 1(Sr.1)
(1966 - 1968)
1966年に発表された「シリーズ1(Sr.1)」は、フォーミュラカーで培ったミッドシップ技術を市販車にフィードバックした、ヨーロッパの原点となる世代です。徹底した軽量化と空力(低重心)を追求した結果、シートは固定式(ペダル側を調整)とし、サイドウィンドウも取り外し式にするなど、割り切った設計がなされていました。FRPボディとシャシーを完全に接着した構造は、高い剛性を誇る一方でアクシデント時の修復が困難という側面もあり、多分に実験的な要素を含んだ初期型ならではのメカニズムを持っています。
レーシングバージョン「Type 47」
このSr.1の基本シャシー構造をベースに、最初から純粋なレース専用車両として開発されたのが「タイプ47(Type 47)」です。市販モデルのルノー製エンジンに代わり、コスワース製FVAやロータス・ツインカムエンジンをミッドシップに搭載し、当時の国際レースシーンで活躍。ヨーロッパの持つポテンシャルの高さをサーキットで証明した、歴史的に重要な派生モデルです。
EUROPA Sr.1 (Type 46)
量産ミッドシップスポーツカーの先駆けとして登場した初期型。ルノー16用の1.5Lエンジンを転用し、軽量なFRP製ボディと鋼管バックボーンシャシーを完全に「接着」して一体化させた、極めてスパルタンな構造が特徴です。
| Engine | Renault Inline-4 1.5L |
|---|---|
| Power | 78ps |
| Weight | 610kg |
シリーズ 2(Sr.2)
(1968 - 1971)
1968年に登場した「シリーズ2(Sr.2)」は、初期型(Sr.1)の実験的な設計を見直し、一般的なロードカーとしての実用性とメンテナンス性を現実的なレベルへと引き上げた主軸世代です。最大の変化は、FRPボディと鋼管バックボーンシャシーの結合方法が、接着から一般的な「ボルト留め」へと変更された点にあります。これにより万が一のアクシデント時にもシャシーやボディの個別交換・修理が可能となり、市販スポーツカーとしての信頼性を大きく向上させました。
EUROPA Sr.2 (Type 54 / 65)
ボディとシャシーのボルト留め化に加え、固定式だったシートにスライド機構を設け、電動パワーウィンドウを採用するなど、日常的な使い勝手を大幅にアップデート。北米市場を意識した、扱いやすい仕様への転換期を支えたモデルです。
| Engine | Renault Inline-4 1.5L / 1.6L |
|---|---|
| Power | 78ps / 80ps |
| Weight | 660kg |
ツインカム(Twin-Cam)
(1971 - 1972)
1971年に登場した「ツインカム(Twin-Cam)」は、パワーユニットをそれまでのルノー製から、自社製の1.6L 「ロータス・ツインカム」へと換装した世代です。長年望まれていたパワー不足が解消されたことに伴い、リアサスペンションの設計も見直され、コーナリング性能が一段と熟成されました。また、それまで後方視界を遮っていた後部のフィン(帆)状のリアカウルが低くカットされ、スタイリングが大幅に変更されたのもこの世代の特徴です。
EUROPA TWIN-CAM (Type 74)
自社製ツインカムエンジン(105ps)を搭載し、出力向上に対応するためシャシーや足回りを強化。後方視界を改善した新しいボディシェルを採用し、動力性能と安全性を高めたバリエーションです。
| Engine | Lotus Twin-Cam 1.6L |
|---|---|
| Power | 105ps |
| Weight | 710kg |
スペシャル(Special)
(1972 - 1975)
1972年に導入された「スペシャル(Special)」は、初代ヨーロッパの最終進化型にあたるモデルです。シリンダーヘッドに改良を施し、インテークバルブを大型化した「ビッグバルブ・ツインカム」エンジンを搭載。さらに、それまでの4速MTに加えてオプションで5速MT(ルノー製のケースをベースとしたもの)が選択可能となり、高速巡航時の静粛性と快適性が高められました。黒やコン(紺)などのボディに施された細いゴールドのピンストライプが外観上の識別点となっています。
EUROPA SPECIAL (Type 74)
126psを発揮するビッグバルブ・ツインカムを搭載し、5速MTとの組み合わせによって歴代モデルの仕様変更の中で最も高い出力スペックを実現。1975年の生産終了まで、ヨーロッパの系譜を締めくくった熟成の最終世代です。
| Engine | Lotus Twin-Cam "Big-Valve" 1.6L |
|---|---|
| Power | 126ps |
| Weight | 730kg |
【番外編】ヨーロッパS
(2006 - 2010)
2006年に発表された「ヨーロッパ S(Type 121)」は、初代の生産終了から31年ぶりにその名を冠して復活したモデルです。構造面ではエリーゼ/エキシージのシャシーをそのまま流用したのではなく、ロータスが委託開発・生産を手掛けたGMグループの「オペル・スピードスター(Vauxhall VX220)」用シャシーをベースに、居住性を拡大した専用のアルミバスタブ構造(121シャシー)を採用しているのが大きな特徴です。サイドシルを低く厚みを抑えることで、エリーゼ系とは全く異なる優れた乗降性と居住性を実現しました。
GM製の2.0Lターボエンジンを積み、荷物スペースの拡大やレザーインテリア、エアコンを標準装備するなど「ビジネスクラス・GT」という快適性を重視した新コンセプトを追求。開発にはかつて初代ヨーロッパを手掛けたエンジニアチームが再び招聘されたことからこの名が与えられました。しかし、ピュアスポーツを求める市場の期待との乖離や価格の高さから世界的な販売面では苦戦を強いられ、商業的な成功を収めるには至りませんでした。ライトウェイトの俊敏性と快適性の融合を模索した、歴史における興味深い試行錯誤の1ページです。
EUROPA S (Type 121)
GM(オペル)製の2.0L 4気筒ターボエンジンを搭載し、低回転から扱いやすいトルク特性を実現。先進の複合素材(コンポジット)製ボディの採用や装備の充実により、現代的なコンフォート・ロータスとして企画されたモデルです。
| Engine | GM-base Inline-4 Turbo 2.0L |
|---|---|
| Power | 200ps / 225ps (225) |
| Weight | 995kg |