世界初のSeven160による本格モータースポーツ参戦
K4-GPは毎年冬と夏に富士スピードウェイで行なわれている軽自動車を中心としたレース。参加車両は市販そのままの車から、ワンオフのフレームにオリジナルのボディを被せたものまで、とにかく多彩だ。通常の耐久レースと異なるのは、使用できる燃料が決まっているという点である。闇雲に速さだけを求めた走りでは、燃料を使いきってリタイヤとなってしまう。限られた燃料の中で燃費とのバランスを考えながら、いかにして速く走ることが出来るかが鍵となる。
マシンは本国の第1号車で開発車両としても使用されていたSEVEN 160。エンジンはもちろんのこと、サスペンションやブレーキもノーマルのまま、ロールケージを追加し、バケットシートを取り付け、タイヤを交換しただけの状態だ。社外部品はタイヤのみ。ロールケージ、シート、その他、最低限レースに必要とされる追加部品もCATERHAM CARS社の純正部品という有り様。ノーマルのCATERHAM SEVEN 160がどれほどの性能を持っているのか実証してみせようではないか!というのが今回のコンセプトなのだ。
FREE PRACTICE
前日にK4GP占有走行となるフリープラクティスとFSWのスポーツ走行を駆使して各セッティングと計測データーの収集に努めるべく朝一番にFSW入り。ドライバーはCLUB Witham Racing 代表の篠原が努める。
ターゲットタイムを見極めながら走行エンジン回転数と燃費を計測しながらシビアなデーター取りが続く。レーシングでのラップタイムと、トラフィックを想定しながらエンジン回転数の2パターンを設定していく。同時にサスペンションのセットアップと2種類のタイヤを選定し、決勝に使用するタイヤでのセッティングも行なった。燃費計測は、インジェクターの手前にFUEL HOSEから直接車両の燃料ポンプを使い取り出す方法で、走行テストが終わるたびに「もっと出てこい!」と皆で祈るように見守る姿は愉快なものでもあった。
日本の軽自動車規格の部品を駆使し企画、そして完成されたSEVEN160は、その生い立ちゆえにファイナルギヤが多分にショートである。もちろん一般道や高速道路を走行し楽しむ分には何の不満もないのであるが、ここは世界に誇るメインストレートを持っているFSWである。エンジンパワーを使いきりストレートを余すところなく全開で走行してしまえば立ち所に燃料を消費してしまうのだ。我々の「ノーマルのCATERHAM S160で!」という世界初の試みは、燃費勝負という側面の大きな壁に当たることが大きく予想された。 結果的に、各スティントの想定エンジン回転数とアタックモードも含め3種類の走行パターンでの燃費計測を完了することができた。データ取りとしては必要にして十分である。あとはこの計測データをもとに今回のプロジェクトのチーフメカニックである内藤メカニックが走行パターンと各スティントの走行計画を立てるのみである。
午後からは、CATERHAM CARSのサイモン・ランバート、CATAERHAM JAPANのジャスティンと佐藤Tipo編集長も加わり、全員が車両の確認と手応えを感じてもらう。と同時に全員の燃費データーの収集を行い、ドライバーそれぞれの燃費傾向を計測した。実はこれが結構重要なのだ! 朝から一日中FSWでのテストを消化し、すべての計画を完了。明日備えて入念にマシンのセットアップを行う。各ドライバーは先にホテル入りしてもらったが篠原だけは一緒に残りマシンのセットアップに付きあってもらった。SEVEN160はボルト一本緩んでいることもなく、そのポテンシャルの高さは明日への安心材料であり本当に楽しみだ。 ガレージのシャッターを閉め、鍵を返しに行く頃には真っ暗闇のFSWで、もちろん我々以外誰も残っていない。僕たちは本気なのだ!と気分良くホテルに戻る。 遅い夕食を三人で取りながら明日の作戦を話し合う。部屋に戻ってからも明日のことが頭から離れない。内藤チーフに連絡をしてみるとレーシングプランを練っている真っ最中で、僕も部屋に合流し、そうしてほとんど睡眠をとることなく夢中で明日の計画を練り上げた。
車両搬入~ブリーフィング
当日の天気は富士山がきれいに見えるほどの快晴!しかし気温はとても低く、朝の段階ではコース上のあちらこちらで路面凍結が見られる状態であり、日が昇ると共に刻々と変わっていきそうな路面コンディションが激戦を予感させる。セブン160が参戦するのはGP-3クラス。34台のマシンがエントリーしているレベルの高いクラスである。ピットへとマシンを運び入れ、その後はピット内やサインガードの設営、そして長時間の耐久レースを戦い抜くためにとても重要な、ピット裏でのホスピタリティテントの設営等も同時に行なわれた。
マシンの方はレースに向けての最終チェックを行う。レースは7時間の長丁場、メカニック2人はドライバーが万全の状態でマシンを走らせられるように、ギリギリまで点検を行っていた。最終チェックを済ませると給油だ。K4GPは使用できる燃料の量と給油の回数が、レギュレーションによって定められており。今回のレースは使用燃料80L、規定給油回数4回以上。定められた給油ポイントはホームストレートの端の方にあり、最初の燃料を満タンにしたあとはみんなでマシンを押してピットに戻った。
全ての準備を完了させるといよいよピットへの整列、そしてブリーフィングだ。バタバタとしていたおかげでマシンの搬入、設営からピット整列からまでが、あっという間に過ぎていった印象だ。ブリーフィングは参加台数の多さのために、コース上で行なわれる。4人のドライバーがブリーフィングに参加している間も、メカニックはマシンの最終チェックに余念がない。
レース開始は9時。ここから7時間の長い長いレースが始まる。レース前に訪れる独特の緊張感は、その場にいるものだけが味わうことが出来るレースの醍醐味の一つだ。




1st Stint : 佐藤 Tipo編集長
ローリングラップスタート。今回のスタートドライバーはティーポの佐藤編集長が務めた。Tipo 佐藤編集長とCLUB Witham Racing との関わりは大変長くそして深いものだ。佐藤編集長のLOTUS CUP JAPAN での参戦から2013年のシリーズチャンピオンの獲得に至るまで、共に戦ったパートナーだ。代表の篠原も絶大な信頼を寄せているようで、今回の耐久レースのパートナードライバーになることもとても楽しみにしているようだった。
スタート時の路面温度は-2℃!路面状況があまり良くないせいもあり、ローリングラップは3周続けられた。そしてペースカーがピットへ入ると同時にレーススタート!合計95台のマシン達が、一斉に富士スピードウェイのストレートを駆け抜けて行く様は壮観の一言。レース序盤はとにかく我慢だ。燃費とペースのバランスを考えながら、可能な限り無駄のない走り方で均一なラップを刻んで行こうという作戦である。
1周4.563kmの富士スピードウェイレーシングコースの中に計5クラス100台近くのマシン達がひしめき合っているわけだから、クリアラップなど簡単に取れるものではなく、ペースを守りながら走るのは容易いことではない。しかしそこはLOTUS CUP JAPAN等で活躍し、レース経験の豊富な佐藤編集長。そういったレベルの異なるマシン、ドライバー達の中でも、安定したペースで周回を刻んで行く。
周回数17ラップ目の時にセーフティカーが導入された。セーフティカーが導入されると作戦はまた大きく変わっていく。一番に考えなければならないのは燃費だ。現在の周回数、想定燃費、ラップタイム等の情報から、リアルタイムで作戦を練り直さねばならない。内藤チーフメカニックが消費燃費と燃料消費の再計算を入念に行い、このあとのプランを練り直し、サインボードでドライバーに指示を行う。
SEVEN 160は燃費が厳しいであろうとの予想だったため、セーフティカーが導入されたのは幸運とも言えた。そしてセーフティカーランは4周続いてからのリスタートとなった。
11時30分。レース50週目で1回目のピットインを迎えた。まずは給油ポイントで予め決めて置いた量の燃料を給油し、ピットへと戻る。レースに慣れたスタッフやメカニック達も緊張の面持ちでマシンを待っていた。流れるようにピット作業とドライバーチェンジが行なわれ、給油からピット作業まで僅か5分きっかりでピットアウト。7時間のレースといえど、指定されたこの4回のピットインの時間をいかに短時間で済ませられるかが、レース中盤~後半になってジワジワと響いてくるのだ。
この時点での順位は総合33位。予定通りに第一スティントをかなり長く引っ張ることが出来たため、順位も想像よりかなり上位につけることが出来た。 ストレートでエンジン回転を制限している我々のSEVEN160は極端に低い最高速で戦っている。そんな中でも佐藤編集長は、どんなトラフィックに巻き込まれても安定したラップタイムで周回を重ねてくれた。篠原が信頼を寄せている理由が良くわかる。この時、チーム内でもこのまま自分達のレースを続ければクラス表彰台も見えてくるのではないかという空気を、皆が感じ始めていた。




2nd Stint : Simon Lambart
- Caterham Cars -
セカンドドライバーはサイモン。ケータハムカーズのスポーツ&テクニカル部門のチーフを務める彼は、レース経験も豊富でさらにはケータハム使いの名手である。ピットで見守るスタッフも彼のレース運びはどんなものか期待がかかった。
今回のレースでは燃費をセーブするためにエンジン回転数に制限を設けている。ドライバーにはその回転数の制限の中で出来るだけ早いタイムを刻むことが求められる。サイモンも富士スピードウェイの走行経験は浅いものの、想定よりも早いタイムでラップを刻んでいく。慣れないコースにもすぐにドライビングを合わせてくるところはさすがだ。
しかしここで天候が少し悪化し始めた。路面状況はドライであるものの少し雪がちらつき始めたのだ。標高の高いところにある富士スピードウェイは天候も変わりやすく、またコースの面積も非常に大きいのでコース上のポイントポイントで天候が違うということも珍しくない。スタート時からみると順位も少しずつ上がってきていたので、これからの天候の変化が心配されるところだ。
レースが進むなか、ピット裏のホスピタリティテントでは温かい飲み物や食べ物をスタンバイして待機していた。 CLUB Witham Racing のスタッフ、クルーは毎回有志で集まってくれているのだという。抜群のホスピタリティーと安定したレースサポートは本当にベテランのチームなのだと感心させられとても勉強になった。次のドライバーチェンジまでの間、ドライバーやスタッフたちはホスピタリティテントで身体を休めることが出来る。7時間に及ぶ長丁場、しかも2月という最も冷え込む時期のレースでは、こういったことも非常に重要となる。
レース81ラップ目、順位は総合16位。安定して速いラップを刻み続けたサイモンは、みるみるうちに順位を上げていき、そして2度目のピットインを迎える。レース83ラップ目ピットイン。2回目の給油もタイミング良くスムーズに行うことができ、チームの待つピットへ滑り込んできた。ピットでの作業もメカニック、ドライバーが完璧に各々の役割をこなし、1回目のピット作業よりも30秒も早くマシンを送り出す事が出来た。




3rd/4th Stint : 篠原祐二
- Club Witham Racing -
第三ドライバーは代表 篠原だ。富士スピードウェイの走り方はすべて把握しており、過去のK4-GPでは総合優勝も経験している。コースのライン取りからギアの選択、アクセルの踏み方などエコラン特有の走らせ方を熟知していることは非常に大きな武器となる。
ピットアウト時の順位は総合で27位。7時間のレースもすでに半分を過ぎ、早くも終盤へと差し掛った。ここまではピットや作戦のミス無く、事前の作戦通りのレースを展開する事が出来ている。ピットアウトした篠原も、燃費を伸ばす走り方をしつつも安定して早いラップタイムを刻み続け、順位を上げていく。 そして我々のチームも遂に100ラップの大台を突破した!ここまでノーミスでマシンも快調に走り続け、そして順位的にも上位にいる。ここまで来たならば目標は完走でも入賞でもない。目指すは表彰台に登ることのみ!
しかし、またしてもここで雪が舞い始めた。雪質はレース序盤に降っていたあられに近いような雪で、少し強いようだ。あまり激しく降り始めると、レース中止にもなりかねない。ピット内では「何とかもってくれ!」と祈るばかりであった。ダンロップコーナー付近では雪の降りかたも強いらしく、複数の箇所でスピンする車両が出ており、イエローフラッグが振られているようだ。殆どのマシンがラップタイムを落としていく中、篠原は安定してラップを重ねており、チャンスとばかりに小雪のちらつく中どんどん順位を上げていくのだ。
そしてここで初めての作戦変更に出た!今回のレースでは、指定の給油所がレース終了1時間前で閉鎖されるというルールがある。定められた4回という給油回数は、給油所が閉鎖されるまでに消化しておかなければならないということだ。当初は第4ドライバーのジャスティンで給油を2回するという作戦であったが、閉鎖直前の給油所は混んでしまうだろうと判断。タイムロスへと繋がりかねない給油は避け、早めに1度給油してしまおうという作戦となった。早めに給油のみのピットインをするため、サインボードでドライバーにダブルスティントを知らせる。急な作戦変更であったものの、篠原も状況を把握して給油のみのピットをこなしてレースに復帰、これで残すピットインはあと1回となった。
コース復帰後もベストラップをマークしながら走行を重ねる篠原。篠原の走りを見た最終ドライバーのジャスティンも気合十分だ!ピット内にも緊張感と同時に「最後まで行こう!」という空気が満ち溢れてきた。
123周目、ピットイン。雪の中であげた順位は総合17位まで上がっていた!先ほどの作戦変更は的中し、ほぼタイムロス無しで最後の給油を終える事が出来た。 ドライバーは篠原からケータハムカーズジャパンのジャスティンへ。ジャスティンは日本の滞在期間も非常に長く、日英両国でスーパーセブンでのモータースポーツ活動の経験も豊富なドライバーだ。ピットでのドライバーチェンジも素早く終了しコースイン。あとはジャスティンに有終の美を飾ってもらうのみだ。




Final Stint : Justin Gardiner
- Caterham Cars Japan -
ジャスティンは序盤はペースを抑えた燃費走行ながらも、均一なラップタイムで周回を続けていった。
レース137周目、レースはついに残り1時間を切る。順位は総合17番手。また少しづつ順位を上げていったジャスティンであったが、同クラスの前車とのギャップがかなりあり、なかなか先の見えてこない状況にあった。しかしここでまたセーフティカーが導入された。前車とのギャップ、燃費の面からみても非常に幸運といえるタイミングであった。
3周のセーフティカーランの後、リスタート。このタイミングでジャスティンの走りが激変した!これまでよりも10秒以上も早いラップタイムをマークし始めたのだ。レースは残り30分を切ってはいるものの、いきなりスパートをかけたジャスティンの走りにピットは騒然となった。ジャスティンに後々聞いてみると、ガソリンのメーターの針にかなりの余裕があり、そこで「行ける!」と確信したとのこと。そんなことを知るよしもないピットでは、ただただジャスティンの走りを祈るように見守り続けるしかなかった。そして何とか保っていた天候がまた悪化し始め、降り続くと積もってしまいそうな大粒の雪が降り始めてしまう。レース終盤になって降り始めたこの雪は、何か運命的なものを感じた。
作戦上あり得ない全開走行でサーキットを駆け抜けていくセブン。レース序盤にハイペースで走っていたチームも終盤になって燃料の残りがきつくなり、完全に燃費走行を取るチームも増えていく中、我々のセブンは他のチームをゴボウ抜きしながら走り続ける。ピットでレースを見守るスタッフは、ジャスティンの暴走ともとれる走りに、ガス欠しないか終始ヒヤヒヤであったが、それと同時にセブンが序盤の我慢の走りから解き放たれた様に周りを蹴散らしながら走る姿には鳥肌がたった。
ここで改めて順位を確認するとクラス3位につけていることが分かった。そして総合でも14位だ。後ろを走っている同クラスのチームとはかなりのギャップがあり、我々のペースから考えても、もう後ろを気にしながら走る必要は無くなった。このまま走り切れれば表彰台獲得、、、いよいよそれが現実的になってきたのだ。残り時間から考えても残りわずか数ラップ、ワクワクとドキドキが最高潮となったピットでは、皆サインガードに張り付いてコース上のセブンを見守っていた。




GOAL!!
そして遂にファイナルラップ。7時間走り続けたレースも、この1周でチェッカーだ。皆それぞれの思いを持ってセブンを迎えいれる。しかし、ファイナルラップでガス欠というのもレースでは決して珍しいことではなく、最後まで気は抜けない。 しかし我々のそんな心配を吹き飛ばすように、セブンは悠々とホームストレートに姿を現してくれた。
チェッカー! 右腕を高々と上げたジャスティンが、フェンスによじ登り歓声と共に迎える我々の前を160と共に走り抜けた。
チェッカー後はチーム皆で抱き合い、無事に完走できたことの喜びを爆発させた。まさに感無量。この瞬間を味わうためにレースをしているといっても過言ではない。大雪が降る中、ホームストレート上で行われた表彰式。我々のチームはK4GP初参戦にしてクラス3位、総合14位をゲット! レース終了間際から強くなった雪は表彰台の熱を冷ますかのようにどんどん降り積もり、表彰式が終わる頃には辺り一面真っ白だ。最初から最後まで忘れられないレースとなった。
チーム全員で戦い抜いたこのレース、誰か一人でも欠けたらこの結果とはならなかったであろう。また、レースに参戦するための最低限の装備を追加しただけのセブン160が、ノントラブルで完走、さらには表彰台に登るほどのポテンシャルを持ち合わせていることには驚かされる。ロータスから綿々と継承されてきたレーシングのDNAを、見事に証明してくれたのだ。




こちらに掲載しきれなかった写真はフォトギャラリーで公開しております。
是非下記のリンクをクリックしてご覧下さい。